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春日山・村を訪ねて(島本公子さん来訪記)


「老蘇」おいそという見事なネイミング≫

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久しぶりに村を訪ねた。昨年5月、「陽光館」を見学したが、今回2回目の訪問。数年前から老後の過ごし方を模索していて、選択肢の一つとしての見学を思い立った。

かれこれ40年の付き合いになるが、村は訪れる度に何かが変わっている。
去年は、5人くらいの方が、黙ってお昼の食事を摂っているところを見て「さびしそうだな」と思ったとお相手をしてくださった平島春美さんに話したら、「明日の朝、『出発研』に出てみたら?」と勧めてくださった。「出発研」では皆が集まるという。
翌朝、8時半、大勢の(年配の)方が一階の食堂に集まっている。まずは連絡事項、それから最近の動向、各係の近々の予定など報告や話しあい。最後に体操。

よく見ればほとんどしゃべらない人もいる。後で聞くと耳が聞こえないか、一言だけ発した方は、アルツハイマーだという。ハンディのある方もできるだけ自力で動こうとし、若い係の方がそっと手を差し伸べていた。

私はまずまずの見学ができたと思ったが、金曜日は病院に行く車が出る日で、何人かが外出、人が少ないので「明日も見学したら?」と勧められる。

翌日は、活発な意見が出た。この村で「酢」を作ってみてはどうか? とか「甘酒は?」とか「牛の世話に行く途中、山椒の実がもう実っていた。そろそろ煮ては?」とか……
最後に私の挨拶になって「酢や甘酒など梅干しも加えて、発酵食品は日本の食遺産。是非この村で本来のものを作り伝えてほしい」と生意気なことをお願いした。甘酒は最近、熱中症に効くというし、減塩の梅干しには本来の味がしない上、保存のために他の保存料や味付けをしている梅干しが横行していることを愁いていたからだ。山椒の実は一度茹でて冷凍しておくと辛みが半減する、とKさん。経験値からのいいアイディアが話し合われている。
その時、Мさんが「『甘酒』は俳句では夏の季語ですよ」とおっしゃってくださった。季語には関心を持っていた私も知らないことだった。

結論は出ないものの熟年期らしいさまざまな貴重な意見が出ることに感心した。これをもう少し活かせる機会があればいいなと思う。

そして壁に貼ってあった「老蘇」という文字。創始者の山岸さん以来の老人を称しての造語らしいのは、以前から見聞きしていたが、しばらく忘れていたのに、今回、これはなんていい言葉だろうと感心してしまった。「老いて蘇る」、素晴らしい造語。
有名な女優のKさんが「役所から『後期高齢者』の通知が届いたとたん凄く年を取った気がしたわ。それまで年を意識したことなかったのに……」とおっしゃっていたのを思い出す。彼女は御年、80代。だが今も恋をし、仕事もしている。その時も皆で同感したが、「後期高齢者」とはなんと無神経な言葉だろう! 誰にも訪れる「老い」ではあるが、誰しも「初めて迎える老い」なのである。不安をあおってどう解決できるというのか。 「老蘇」とは大違い!

この国のあまりにも急速に進んだ「超高齢化社会」をどうすればいいか、皆、手をこまねいて右往左往している。老いた人に教わることはたくさんあるのに。学ぶべきことがたくさんあるのに。そして、老いた体に本当に必要なサポートも徐々に見えてきているというのに。今更、長幼の序を重んじよ、という儒教の教えに戻れとは言わないが、この村の「老蘇」の考え方、あり方にヒントがあるような気がした。 2016年5月30日

 

島本公子(しまもと・きみこ)
1945年生まれ。兵庫県出身。慶應義塾大学文学部卒業後文化出版局勤務。86年より『家庭画報』の編集に携わり、「本物印の食べ物通信」で各地をルポ。春日山実顕地の養鶏と卵を紹介した。現在も吉永小百合、黒柳徹子など著名人のインタビューや対談を担当している。

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コメント

  • 加藤 陸子

    20年前子供楽園村産経新聞で知り、子供楽園村の響きのいい言葉に誘われ講演会に参加、未熟な私は夢にに見る楽園村を想像、子供達を(3歳・小学校1年)の子供を送りだしました。
    楽園村に到着始めてみる村にビックリ~緑の丘が広がり牛サンたちが放牧されている姿を想像?
    1年生の長男は喜び村の中で自由に解放されて大きく成長させていただきました。
    その後私も(特講)に参加しましたが~今日ヤマギシファームのホ―ムページを開き懐かしく思い出しています。
    ヤマギシファーム堺店で生産物を久しぶりにいただき昔を思い出し市販のものとは違い肉は甘く味わいがあるねと言いながら老夫婦が昔の子供の姿を思い出しながらいただきました。
    堺店までは距離があり遠いですがこれからも利用させてもらいたいと思っています。

  • 平島春美(春日山実顕地)

    若々しい島本さんにまずはびっくり!世界最高峰の現役編集者よ!とおっしゃってました。
    春日山に夜、着いたその日も和歌山で、熊野古道を歩かれての取材の帰りだとか、クリームシチューとトマトのサラダを「美味しいわー、今年食べたトマトの中で一番!」と食べて、豊里での手作りパンを「明日の朝もこれ食べたいわー」と言われてました。
    40年ちかく冷静に実顕地を見ているこんな方がいるんだーとちょっと感激。
    次の日私は加賀実顕地へ出発でしたがわざわざ、見送って頂き、その細やかさにも感激でした。