ヤマギシのむらnet

今まで培ってきたものと、これからの未来と


研鑽会を終えて、皆で見送ってもらった

研鑽会を終えて、皆で見送ってもらった


韓国実顕地で、鶏舎と選卵場を建てたいという提案があり、関係者で打ち合わせに行ってきました。韓国では、有精卵の需要は高く、いつも卵が足りない状況だという事でした。また、食品安全に対する意識が高く、来年3月の法改正で、HACCPという、厳格な衛生管理 基準が施行されるので、それまでに選卵場を完成させたい、という事でした。
現地に着いて、早速現場を見せてもらいました。18棟の鶏舎は、とてもよく手入れされていて、鶏舎も通路も、そして鶏も含めて、とても「美しい」光景でした。そのうちの1棟で、試験的に、韓国製の自動集卵機が設置されていました。北側の壁際に、全室を貫く集卵ベルトが設置されていて、一番東側の部屋に卵が集まってくる仕組みになっていました。順調に稼働している、という事でしたが、導入したばかりで、厳しい冬でも、順調に使えるかどうか、慎重に検討したい、という事でした。また、とまり木の置き方について、試行錯誤していて、半分に切って、半分を、直角に置いてやってみている、という事でした。
隣接する、新用地の造成は、着々と進んでいて、広々とした新しい大地が、ほぼ出来上がっていました。敷地を見ながら、新しい鶏舎が建つと思うと、新しい仲間が増えるような、本当に嬉しい気持ちになりました。

韓国実顕地で、新しい鶏舎を新築するにあたって、2つの意見がありました。1つは、今までの鶏舎と同じスタイルで建てる、という案。「屋根全体の高さを、若干高くする」とか、「庇を若干延ばす」とかはあるけど、基本的には木造で今まで通り建てる、という案。熱心な活用者の参観が度々あって、「この鶏舎でこそ、この有精卵」といってくれる人も多く、この人達の期待に応えるためにも、新鶏舎は、今までの形を大きく変えないで建てたい、という意向でした。
一方、養鶏法がスタートしてから60年、世の中の養鶏技術や建設技術の方も、進歩してい ます。平飼養鶏の世界でも、自動集卵、自動給餌、ローダーによる鶏糞出しが一般的になったし、殆どが、柱のない鉄骨造の鶏舎になっています。機械がやれる事は機械がやって、人間は人間しかやれない事に集中する、という方向に進んできてます。既存の鶏舎を改造して、自動集卵機の設置は試しているが、もっと、もっとこの方向に進められる事はないのか、という意見です。
今までの鶏舎の特徴の一つに、「大屋根が流線形になっていて、空気の流れが良い」というのがあります。この事について、韓国のユンさんから電話があった時、自分はよく分かってませんでした。新しい社会式鶏舎を新築するにあたって、鶏舎の大屋根の設計図がどうなっているか、という問い合わせでしたが、「よく分からないので、調べてみます」と言って電話を切りました。さて、どうなっているのでしょうか?
流線形というのは、飛行機の翼の断面にように、小さな半径の曲線と、大きな半径の曲線の組み合わせで、空気の流れがスムーズにいくような形の事らしいのですが、建設部に残されている、昔の図面を調べてみました、よく分かりませんでした。さて、と思って、養鶏法に掲載されている、鶏舎の図面を見ると、岡本俊輔さんという方が描かれた断面図には、柱の高さが尺の単位で描かれていました。この数字を、メートル単位に直して、コンピューター上で再現してみました。驚いた事に、ちゃんと流線形になっています。鶏舎の大屋根は、上の方では、半径約12m、下の方では半径が約17mになっていて、内部空間を大きくして空気の流れを良くした上で、北側の棟の太陽光を遮らないようになっています。資材の乏しい時代に、最小限の材料で、鶏にとっての環境が良くなるように、よくぞここまで工夫した、という感じです。
また、鶏舎内の陽当りについても、もう一度確認してみました。韓国実顕地は、北緯約37°(那須とほぼ同じ)なので、この太陽高度を入力して、パソコンで作図してみました。朝から夕方までで、太陽が東から西に高度を変えながら動きます。この太陽の光が、南側に建つ鶏舎の屋根を超えて、鶏舎内に入ってきます。天窓の光も含めてこれを、図面上に描いてみると、一番太陽が低い冬至の時でも、どこかの時間で、全ての床に太陽の光が当ります。経験的に知っていたつもりでしたが、描いてみて、改めて驚きました。
一方、私達は飛行機に乗って韓国に来ました。大きなワゴン車で迎えに来てもらって、高速道路を走って実顕地に到着しました。今の暮らしは殆ど全て、ここ数十年の間に開発された技術を使っています。新しいもの、便利なものは、喜んで、そまま使っています。技術の進歩が、はたして人の幸福にとってどうか、自然と人為の調和にとってどうか、という検討をしてきているのかどうか、考えてしまいました。
研鑽会で、「今までの形で建てるか、新しい形で建てるか」という話が煮詰まってきた時、この事は、時間をかけて研鑽しよう、という流れになりました。韓国の新鶏舎をどんな形にするか、という話ではあるけれど、それ以上に、今までやってきた何を大事にして、次の時代をどうつくるか、というテーマに行き着きました。経験を積めば積むほど、「やってきた」ということになるし、それは大事な財産になります。だだ、その中の、本当に大切なものが何で、この先の未来においては、何がいいのか。本当はどうかで、考える事が出来るでしょうか。鶏舎と選卵場を同時に、来年3月に完成させる、という建築許可を受けていましたが、この計画を分割して、鶏舎と選卵場を別々の許可に切り替えてもらう事にして、鶏舎建設を、1年延期する方向が出ました。
今回、韓国の鶏舎建設という事で、大事なテーマが見えたように思います。どの実顕地の産業にも、暮らしにも共通する、大切なテーマだと思います。この事に時間をかけて研鑽する機会がありそうなので、それが今とても楽しみです。

豊里実顕地 後藤 健
コメントがあります( 表示する | 表示しない

コメント

  • 喜田栄子(豊里)

    韓国の新鶏舎をどんな形にするか、という話ではあるけれど、それ以上に、今までやってきた何を大事にして、次の時代をどうつくるか、というテーマに行き着きました。経験を積めば積むほど、「やってきた」ということになるし、それは大事な財産になります。だだ、その中の、本当に大切なものが何で、この先の未来においては、何がいいのか。本当はどうかで、考える事が出来るでしょうか。

    このことを↑研鑽したい!
    せっかく参画してやっているのだから。もっともっとそこをやりながら、生きて行きたい!