ページを印刷 ページを印刷

【エッセイ】9029号よ 永遠に


子宮脱  2012年3月1日

2375号

 数日前、3年ぶりに牛の子宮脱があった。

 牛の名号は「2375号」一度蹴られたことがある娘である。幸い一命をとりとめ、元気にお乳を出している。

 子宮脱とは、分娩後にお産のついでに子宮を裏返しにして、外気中に放り出してしまう事故、死に至ることも多々ある。
経験不足から過去に、2頭死なせた記憶。ずいぶんと心を傷めたことがある。

 伝えたいのは、命の綴り方。自らの生と宇宙一体のあかし。

 ともがらと綴る命の酪農。

 今回の施術は、吉田君・ゆかりちゃんとのトリオ、ときおり順ちゃん。 

 以前に書いたものがあって紹介します。

9029号よ 永遠に 2009年5月7日

9029 花札のオイチョウカブなら ブタの数

つまり ピンからキリまでの ピン(1)にもなれないと いうことになる

父は アメリカのイトー 名牛だよ

母は ブラックスターの血統だ 

色は黒がち 体型は良 気だても良くて 乳も出す

昨日 僕は おまえの肛門から手を入れて 赤ちゃんの有無を確認した

お産から 1回の受精で 4番目の赤ちゃんが出来たね おめでとう

そんな予感がしていたんだ 今日の来る日が 楽しみだった

1月20日の早朝 忘れもしない

産道で 足が引っかかっていた 難産だった

子牛は 助かった それもメスだったね

おまえは すごく弱っていて 僕は点滴を3本もした

午前9時半 打ち合わせの時 朋香ちゃんの大きな声が

「子宮脱」を知らせに 階段を 駆け上がってきた

この農場に 1年に1度 あるかないかの 牛の命に関わる緊急事態だ

もう おまえの瞳はうつろで 子宮はとてもひとりでは抱えられない大きさだ 

身体の外に飛び出して 真っ赤な血で濡れていた

清水さんと金子さんに 機械で腰を吊ってもらい 朋香ちゃんと二人で

こびりついた胎盤を はがしにかかった 消毒液で懸命に洗ってみた

血だらけで どうなっているのか よく分からない こんな状態初めてだ 

僕たちも血だらけだ 時間が過ぎる 

もう無理 ここまでだ 納めるぞ

二人で 持ち上げながら 少しずつお腹の中に返す

ちょっとでも傷をつけたら 命を失うという手当

重さも30キロぐらいあったかな ようやく押し込んで 陰部を縫合した

もうおまえは ぐったりとして 生気のかけらもない 駄目だと思った

午後に おまえを 診にいった 近づくと

急に フラフラと おぼつかない足取りで立ち上がった

あのときの おまえを忘れない 奇跡だと思った

「9029 なんとかしろよ おまえに おまえが かかっているんだ」

思わず 大声が飛び出したよ それから 2日間 介抱をした

3日目の朝 おまえは 自分で キリッと立って

乳をしぼってもらいに 牛舎に歩き出した

でもな あれだけのことがあれば 感染症がでないというのが 不思議だと思う

10日ほど ずいぶん 心配したんだ 

何百頭もの牛の世話 いつのまにか おまえのことを忘れていた

あの朝 大きな群の中にいる おまえを見つけた

聞くと 1日45キロ お乳をだしているという

すごいな おまえは ぼくは身震いした

0というのは「0の発見」というくらい 数学では大事だ

0の認識がなければ 人類は ここまで発展できなかったに相違ない

零位 というのも大事な位置だ

おまえみたいな 牛ばっかりだったら いいなと思ったりする 勝手な僕だ

生きるって 結構大変だけど

お互い 理由があって この世に生命を受けたのだから 

本来の役割に添って 生きていこうな

それぞれの 生命を

9029号よ 永遠なれ

【春日山実顕地 柳文夫】