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「エッセイ」
バットムンクの口笛


研修生のバットムンクは遊牧民である

幼いころから 家畜の世話を してきたという

ナーダム(モンゴルのお祭り)の草競馬

子ども部門で 優勝したこともあるという

一緒に 仕事をすると 身のこなしが違う

ふーんと 感心してしまうのだ

最近になって 催乳に 牛を連れてくる誘導を始めた

順さんが「口笛をふいてみたら」といった

バットムンクは おもむろに 舌の先を 下歯に 滑り込ませて

「フィッ」 と吹いた

犬笛というものがある その周波数が 20000ヘルツ を超えると もう人間には聞こえないという 

犬は その音を 聞くと 耳をそば立て 音の方向に耳と目で反応する

口笛を吹くバットムンク

そして 一目散に 音の方向へ 駆け出すという

「フィッ」 バットムンクの口笛は 広い牛舎に響いた

それは 乳牛たちの本能に 一瞬にして とどいた

口笛に 牛たちは ベットから立ち 耳を立てた

牛たちは 音の方向に 動き始めたのだ

モンゴルの 北の草原の 羊や山羊に向けて 放たれた 口笛は

草原の風に乗り 家畜たちの耳を捉える 

羊たちは バットムンクの意志を聞き 動きを 決める

広大な草原の 家畜の群れと フリーストールの牛舎の牛

ひょとすると 地球上の あらゆる家畜たち

バットムンクの口笛に 反応するのかと思うと 嬉しくなってしまう

近々 バットムンクに 教わって 舌の先を ととのえて

「フィツ」と吹けるように

なりたいものだと 思っているのも  

いいでしょう

【春日山実顕地 柳文夫】