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利休鼠の雨が降る


1-利休鼠-001

2013/11/07

その昔 哀切な歌声で

「城ヶ島の雨」を唱ったひとがいた

このねずみ色を探して 何度も辞書を

開いたはずだが 

とんと その色が 言葉になって出てこない

ある日 古書店で見つけた本は

無理をしないと買えない 残りの小遣いが 吹き飛んだ

「四十八茶百鼠(ネズ)」

江戸時代後期 奢侈(しゃし)禁止令で生まれた

江戸の暮らしの華

その縞(しま)模様に 百の鼠色を 

染め分けた 江戸の人の色彩

色の見分けは 日本人が世界一

それ 

水色鼠(ネズ) に 藍鼠

深川鼠 に 港鼠

それから それから

利休鼠 に 銀鼠

ネズミといわず ネズと切るのが 江戸風であるが

「城ヶ島の雨」は 利休ネズミ と唱う

唱ってみると この方が 語呂がいいい

もっとも かの白秋先生は 福岡は 柳川の人だった

色の世界を 覗(のぞ)いてみると

「白殺し」「一入(ひとしお)」 「白群青」に「秘色(ひそく)」

紅(くれない)を 「思ひの色」 とも いうのだ

ひ は 「緋」 真緋と書いて 「あけ」と読む

炎のように燃える赤を 「火色」 

それは 「願ひの色」 でもあるという

さて 話はかわって 村の暮らし

毎日が 同じように 見えもするが

ひとりひとりの 暮らし方や 仕事ぶり 

とくに 目立つようなことは ないのだけれど

「四十八茶百鼠(ネズ)」

そのひとが その持ち味どうりに 生きてきて

みんな 渋く 光って見える

「たのむとね 少し考えてから やれる日をいうのさ

 あの人のやった 溶接はネ ちょっと工夫がしてあって

 きれいで 丈夫で 使い勝手がいいのさ 

 それでね 決して 他のひとの 作業時間に 影響しないんだ 

 いつのまにか 終わってる 

 ああいう仕事がしたいけど・・・・・」

イズムに 洗われて

純な 心情で 生きてきて

そこにある そのすがたは

もう すでに 観音さま

自分以外の ことが こころの大半を占(し)めて

いつのまにか ひとと自分の 境が

なくなってしまった ひとたちの

群れなんだナー と

しみじみ 思ったりするのですよ

そう 「火色」 は 熱い「願ひの色」でしたね

【春日山実顕地 柳文夫】