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梅の花とともに…


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まだ寒空のなか咲く梅の花が、ようやく見頃を迎え始めた3月3日、
花が好きだったトシエさんが、沢山のお花に包まれて、皆に見送られ、旅立っていきました。

毎日毎日、車椅子を押して通った道、
トシエさんを乗せて車で走った道を、一台の黒い車がゆっくりと、通っていきました。

「…今日もお出かけかな?」
ふと、そんなことを思う私がいました。

享年89歳、…いつかは来るとは分かっていたのに、こんなに寂しくなるなんて…。

6年前の春、生まれ育った故郷を離れ、トシエさんは一人、村へやってきました。
その2ヶ月後、私は介護に配置になり、それから丸3年半、お世話させてもらいました。

初めて会ったそのときに、まるで孫娘のように喜んでくれたのを、今でもはっきり覚えています。
これからいっぱい話を聞いて、一緒に過ごす時間を作って、楽しませてあげよう。…

そう決めたはずなのに、いつの間にか事柄に追われ、こなすだけの毎日、…いつしか、その心を忘れていきました。

… ほんとうは、もっとそばにいてあげたかった。
もっと話がしたかった。もしかしたら
寂しい思いをさせてしまっていたんじゃないか、…と、思い返すと溢れ出る涙…、、

ゴメンね、という気持ちと、
一緒に過ごせて本当に楽しかったあれやこれや、味わわせてもらったこと、

“ありがとう、”という気持ちを手紙にして、棺に添えました。

ときには疲れて余裕がなくなり、つい腹が立ってしまうときも、
愚痴や小言を聞いてあげるときも、
お互い言いたいことを言えて、
いっぱい笑って、まるで家族のようになっていったのも、

口は悪いが(笑)心の優しい、あたたかいその人柄のおかげだと思います。
ものの理の分かる、賢い方でした。

真夜中の体位交換のときにはいつも、「ありがとう。」と背中越しに小さな声で言ってくれました。
今でもいつもの声が聞こえてくるようです。
「ありがとね」、と…。

短い間でしたが、 お世話をしてあげた、のではなくて、一緒に過ごした、幸せな時間でした。介護を通して、沢山学ばせてもらいました。
ほんとうに、こちらこそ、ありがとう。

では、…
新しい旅立ちに…

いってらっしゃい。
春日山の皆より。

春日山実顕地 出原亜紀子