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豊里で一年間


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1年間実習生をやって。そして、今思うこと
 この前、なんとなく鰹節を煮出す手間が惜しい気がして、だしの素を買った。使い始めて、ふ、とそうやって勝手に自分の時間に値段をつけて、ちょっとずつ切り売りしていたのは自分だったんじゃないかって思った。社会の仕組みが悪いとか、そういうことばっかりじゃないんじゃないのって。
 
乳牛部に行って、しばらく経った頃の村岡さんとの会話を思い出した。当初、私から見た乳牛部は、ロボット牛舎を導入していたり、所謂、牧歌的な酪農のイメージ(アルプスの少女ハイジ的な)とは違っていて、むしろ昨今流行っているDX化(デジタル・トランスフォーメーション)に積極的なのかな、という印象を受けた。だからこそ、事務所のメモが手書きだったり、わざわざ白板にデータを書き写したり、と自動化、機械化出来そうなところを、人がやっていてチグハグに見えた。ボトルネックが技術的なものであれば、手伝えそうな事もあって、僕に手伝える事があるか、と聞いた時に、一人でできる仕事を3人でやるってどういう事だと思う?という趣旨の返事があった。
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正直、やられた!と思った。3人分の仕事を一人でできるようになろうよ、とか超人的なスピードで働くことを我々に期待しているような時代・世界に私は生きているんだって、そういう梯子を全部外された。ロボットを導入することと、生産性を上げること。今の時代的にも違和感なく結びつく2項目だが「一人でできる仕事を3人でやる」という文脈があると、いきなり、別の問いが見えてくる。
 
例えば、生活の手触りってなんだろう。それを大事にするってなんだろう、とか。生きることに忙殺されそうになる毎日を、上手に楽しむような、そんなバランス感覚の話だったのかもしれない。いずれにせよ、村岡さんの真意は未だにつかみ切れていない。

加藤杜亮