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バイオガス発電の取り組み【別海】


牛糞尿を原料に発電量150KWhのバイオマス発電設備が年内に完成稼働。

牛糞尿を原料に発電量150KWhのバイオマス発電設備が年内に完成稼働。

昨年、“むらネット”や産業部門連絡研鑽会で簡単に紹介した乳牛糞尿を嫌気発酵させ、発生するメタンガスや残る発酵液(消化液)の利用計画ついて、内容も固まり工事も始まりましたので概要、それに“夢”を今井春菜さんのイメージするイラストと共に紹介しましょう。

糞尿をメタン発酵させガスや液肥を利用することは昔からある技術で目新しくはありません。しかし、酪農家がその為の設備投資をしても利点は少なく、今までは主に、市街地や空港に近い一部の酪農家が糞尿散布による悪臭への苦情対策で設置するなど限られていました。

しかし、2011年の福島原発の大惨事で原発依存のエネルギー政策が見直され、12年7月、再生可能エネルギーの固定価格買取制度が始まりました。この制度を利用したバイオガス施設を建設すれば、発酵液の牧草地への還元、発生するメタンガスでの発電や熱利用も実現可能になるのではと別海実顕地では研鑽を重ね、昨年8月経営運研で実施の方向で詳細を調べることを決めました。

その後、釧路、十勝など道内で稼働、建設中の多くの施設を見学調査し計画を練り、業者の選定、経産省の認定、北電の申請を終え着工に到りました。

バイオガス発電イラスト:別海実顕地 今井春菜

バイオガス発電
イラスト:別海実顕地 今井春菜

牛糞尿を原料に発電量150kwhのバイオマス発電設備が年内に完成稼働します。

このバイオガス施設は日量50トンの乳牛糞尿をメタン菌により嫌気発酵処理するもので、発生する日量1700㎥のメタンガスを燃料に、電気と熱を発生させるコージェネレーション(熱電併給)システムです。

別海実顕地の冬は長く半年にも及びます。その間、糞尿貯留槽に溜めた多量な液状の糞尿を春から秋にかけ810ヘクタールの牧草地に適正に還元することは、土、草、牛、環境、経営など別海酪農を持続発展させる上で最も重要な要素かもしれません。

しかし、低温冷涼な気候の別海では糞尿の腐熟も遅く、早春5月、草地に散布すると分解せず残っている繊維分が牧草や土の表面に付着し、放牧した乳牛も喜んで牧草を食べず、また、6月から始まる貯蔵牧草の収穫時には草と一緒にその残った繊維が拾われサイロに持ち込まれ、牛の主食、牧草サイレージの品質劣化の一因となります。

それを避けるため、春の糞尿散布は限定的、控えめになり、結果的に夏から秋の短期間に、迫る冬を気にし、環境への影響を避けながら集中して処理することになり、大変難儀な作業を強いられてきました。スタートダッシュが上手くゆかないわけです。

2-バイオガスタンク3582

実は、バイオガス施設はこの問題解決の現状で最も有効な方法で、発酵過程で有機物がメタン菌で消化分解され減少し、腐食化し早春5月から散布出来るようになります。春から秋にかけ平均して草地に還元できることで糞尿貯蔵施設管理や作業、施肥の組み立てなどが格段にやり易くなります。

自給飼料として最も重要な1番牧草へ肥効の高い発酵液(消化液)を利用できることで、化学肥料使用量の効果的削減を期待できます。既に導入実施している農家の話では、草の嗜好性が高くなり、雑草が減少していき、牛の疾病が減り、ハエも少なくなるなど共通した評価をする人が多いことも楽しみな点です。散布による悪臭の低減にはこれに勝る方法はありませんし、温室効果ガス発生の抑制にも貢献できます。

今回の施設では発酵液(消化液)は、更に“固体と液体に分離する機械”を通す方法にしますから、繊維分は除かれ流動性のある一段と利用し易い液肥になります。分離回収した固形分(繊維分)は、乳牛の寝床のクッション材として年々入手が困難になるオガクズの代わりに使い、牛の快適性を高めます。

発酵槽で発生したメタンガスを燃料にガスエンジンを動かし、それと一体の発電機が回り、1時間に150kWh、1日3420kWhの電気を生み出し、施設維持に使いながら余った電気は北電に買ってもらいます。実は、バイオマス発電は太陽光発電と違って、24時間連続して発電するので火力発電と同じ扱いです。

昨年、別海実顕地の生活や産業で使った年間電気使用量は670MWh(メガワット)ですから、効率よく稼働するとこの施設での電力自給率?は170%にもなり、夕張・穂別実顕地が使用する電気も数字の上では充分に賄えます。

自動車のエンジンと同じで、メタンガスエンジンが高速で連続運転することで高熱を発生しますから、その冷却や排熱を利用し大量のお湯ができ、温ければメタンガスボイラーで加温も出来ます。メーカーではこのコジェネシステムの電気と熱への変換効率は80%を超えると言っています。

冬、お湯はガスの発生を安定させるため発酵槽などの加温の熱源として使われることが多く他にどの程度利用できるのかまだ不明です。逆に夏は有り余る熱と湯をどう使うか? 生活館は2㌔も離れているし? 給湯ステーションでも造るか? マンゴーは? 冬、温度足りるの? 乾草でも作る?・・・ 良いアイデアありませんか?

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この施設で使う糞尿量は別海実顕地の乳牛の半分ですから、まだまだ未利用資源はありますが田舎の電線や変電所は容量不足で発電しても送れず、北海道電力も末端の送電線などに投資する気持ちはないようです。幸い別海実顕地の規模が大きく既設電線の容量があったためこの規模での計画が実現しました。

わが町別海には10数万頭の乳牛が飼われていますから莫大な未利用資源が眠っていることになります。今回のバイオガス発電の取り組みで、牛乳生産以外の新しい動きが地域に芽生えるきっかけにでもなれば面白いのですが。

プロパンガスのようにメタンガスをボンベに詰めて自動車やボイラー燃料に使う試験も別海町では既に始まっていますし、ガスを低圧でより多くボンベに貯蔵する技術の進歩もあるようですから、近い将来、トラクターや車の燃料に、愛和館の調理はメタンガスで、生活館の風呂や暖房はガスボイラーでと夢は拡がります。

乳牛に牧草を与えて牛乳や肉に変え栄養豊かな食糧を生産提供し、その過程で出る糞尿をメタン発酵させて電気や熱エネルギーを生産し地域社会に貢献する。

残った発酵液は肥効の高い有機肥料として草地に還元され土壌が豊饒になり、栄養豊かな牧草やとうもろこしが生産され乳牛に与えられる。願っていた素晴らし循環農業ではないでしょうか。                        

【別海実顕地 酪農部 荒木靖】