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加賀日和 春を寿ぐ


 娘達の合唱が終わりに近づきかけてくるにつれ、胸の内側から何かが急速にふくらみ始めて、行き場を失った暖かいものが萌え出るように頬を伝わり始めた。 

「これで終わります」
その場を満たした空気をふう~っと漏らすように、勝子さんが、
「ありがとう」、、、、「なんだか胸がキュンとするわ」、、、、、「涙もじんとくるわ」、、、、「また来てください」、、、、「ありがとう」、、、、、、「たまらんわ~!」

 高等部女子部四人の娘達が瀬戸さん、千浪さん、いく子さんとともに家族旅行のようにして、二月の末に二泊三日で加賀に来てくれた。
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 手作りパン、回転焼き、プリン、苺、軟骨のから揚げ、菓子パンなどなど、その後の食卓に上がるものに、え~っ、これも~!と言うほどいっぱいのお土産を抱えて。

 二日目の夜は娘たちが合唱をしてくれる、極上の贈りもの!。
「ふるさと」「君をのせて」「明日のために今」アンコールで「村に育つ僕達」を歌ってくれた。全身が、目に見えない、たおやかに流れる何かにゆったりと吸い込まれていく。

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娘たちがここまで育ってきて、今があって、そしてこれからへの物語。ここにいる僕たちの物語と調べあって悠久の大気にとけていくように。

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合唱している娘たちを宝物のように大切に、、、、瀬戸さん、千浪さん、いく子さんのあったか~いまなざし。大事なものを温めるような皆の体温が伝わってくる。

 ~今日も朝起きたら、隣であいつが寝ている、いびきがうるさいとか、布団とられたとか言いながら、共に暮らす毎日~

1-加賀日和

 夜廊下に出ると、娘たちが部屋から布団を抱えて運びだしている。どうも六畳一間に娘達四人で寝ようとしているようだ。ふと見るとスリッパが5人分?、いく子さんも一緒!。うちの末娘もお世話になった。長い間学園でお姉さんとして妹達をみていてくれて今はもう三児のお母さん。
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 ここのところ、「生きる僕ら」「神去なあなあ日常」「神去なあなあ夜話」を続けて読み終わって、何かこういう面白い本ないかと探していた妻が、

「最近自分の中が底をついちゃって空っぽになっちゃったみたいから、やっぱり巳代蔵全集また最初っから読もう」
と言ってほんとに少しずつ読みだしている。

娘たちが帰った夜
「一巻目の最初の所すごく面白いのよ。」
っていうので
「え~!どういうところが?」と聞いてみると。

「だってさ、あの時代に、養鶏で儲けたくて集まって来る人たちに、『研鑽会で一句一節ずつをもらさず、、、、研鑽することで』って言うのよ。自分たちにはなじみのある言葉だけれど、その人達にいきなり『研鑽』だって。あの時代に待ちに待たれていた養鶏で人を集めておいて、そこで『研鑽』っていうの、巳代蔵さんてすごいわ。」
と嬉々としている。
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 娘たちの来る前の日たまたま朝テレビをつけたら「短歌de胸キュン」という番組をやっていた。20代ぐらいの現代っ子達が「古典」というイメージの短歌を楽しんでいる。それだけでもなんだか嬉しくなってきた。その子たちが詠んだ歌に先生がコメントしながら、こういう風にしたら「調べ」が良くなるって言っていたのが、強烈に印象に残った。たしかにその歌がふわ~っと大きく和やかにふくらんでゆく。心、形、調べ。
 
 春は花 夏ほととぎす 秋は月 冬雪さえて すずしかりけり

 娘達今頃なにしてるかな? あの後とても暖かくなって、今日はまた少し雪模様、でも加賀にもたしかに春は巡って来ているよ。
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 はじまりの春を一緒に祝いたい。乾杯!

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【加賀実顕地 新村正人】